《時の石、時間の矢》
キャンバスに油彩
333mm×242mm
2024
ゲーム用語における「MOD」(モッド、モド)は、”変更・修正”という意味を持つ英単語「modification」が由来となっている造語である。
MODはゲーム内に存在しないキャラクターやアイテム、衣装等を入れることで、ゲームそのものを改造してゆく、いわゆるチートやバグ技を可能にするガジェットのようなものだ。
今回の個展会場であるbluesdressではモッズファッションを扱っている。奇しくもMODとほぼ同じ文字列のモッズカルチャーのモッズ(mods)は「modernist」が語源になっている。カウンターカルチャーとしてのモッズファッションには、ゲームのMODによる改造、つまりシステムに対するカウンターに通ずるものを感じる。
私はゲームプレイそのものよりも、MODを使ってゲームを改造したり、ゲームをクリアした後の何もすることがなくなった空間を散策することの方が好みである。風景を楽しむように、ストーリーとは無目的な動物や植物等のプロップをただただ鑑賞することが作品制作へ繋がる。
そこには坂本繁二郎、或いは熊谷守一の絵画のような、静的で牧歌的な感性があるし、ドナルドジャッドやカールアンドレのような、純粋なキューブが地面に置いてあるだけの数理的、概念的な美しさ、モダンな感性があるからだ。
また3DCGのゲーム空間では、正しい物理法則を与えてやらないと人間の直感とは程遠い挙動、つまりバグを起こしてしまう。
例えば、もの派の李禹煥の作品のようにガラスを石で割ろうとしても、"コリジョン(衝突判定)"のパラメーターを与えてやらないと石はガラスを量子力学の世界のようにすり抜けてしまう。
その現象はプロダクトとしては禁忌だが、アーティストの私から見ると、非常に美しいものに感じる。オブジェクトが意味性や役割の呪縛から解き放たれて、純粋なシステムの暴力性や物体としての美しさが表出するからだ。
バグ。システムが壊れた瞬間の美しさ。わたしは、それも一つの自然のあり方だと捉え、人間主体として歓迎している。
わたしは3DCGモデラー/デザイナーとしてプロダクトを生産する側面を持つ一方で、アーティストとして3DCGを用いた作品を制作している。
モデリング(modeling)を通じてモダニズム(modernism)以降の絵画を出現させたいという思いがあるからだ。
そのためにはテクノロジーに肉薄し、メディアそのものの両面性や両犠性を実感し、体力を消耗し、或いは心底疲弊し、メタ視点から物事を俯瞰する必要がある。
それを踏まえた上でシステムを改造することができる。
わたしは芸術のために、MODのような概念を用いてゲームのシステムに介入していく。
物語が終わった後の世界でモダニズムを反復しながら、動物がアイテムと戯れる様子を、人間とテクノロジーとの関係性と重ね合わせたい。
近藤拓丸
1993年福岡県生まれ
2018年多摩美術大学大学院美術研究科絵画研究領域油画専攻卒業
1990年代の低解像度・ローポリゴンのゲーム内の喪失感や美学、詩情から影響を受け、3DCGツールで別世界を作り、作品を制作している。
近年の発表・受賞歴に第一回BUG ART AWARDファイナリスト展(BUG 2024)、ニュー・ニューウェーブ・フクオカ(黄金町エリアマネジメントセンター 2023)、長亭ギャラリー賞(長亭ギャラリー 2023)、PARCO感覚(福岡PARCO 2022)などがある。