絵画や立体作品、さらには映像など、形式に縛られず、独自の仕方で表現活動を行ってきた。さらに、作品に登場する事物もユニークだ。ミツバチやカタツムリなどの生き物を作品に取り込んだり、カンヴァスをバーナーで燃やしその痕跡を提示してもいる。他にも、近作の映像作品では、干潟でパフォーマンスを行う坂口の背後で、無数の生物が這っていたり、地中から飛び出たりする姿が捉えられている。 自然環境の保全と危機が叫ばれる現在、坂口の半世紀近いキャリアを再考する必要性があるのではないだろうか。 他方、この芸術家は決まって、作中にこだわり抜かれた美しい色彩を使用し、見る者を魅了してもいる。 現在開催中の、GALLERY KTO新宿での個展には、今年制作された絵画作品「Field of Silence」シリーズが、計6点出品されている。メイン空間には、182×228cmの大きな絵画が2点、さらに145×96cmの縦長の絵画も2点展示されており、会場は坂口作品を象徴する「ブルー」によって包み込まれている。 坂口作品の大きさと圧倒的な美しさのみならず、画面内部に散見される「螺旋」によってもまた、鑑賞者は包み込まれているような感覚を覚えるだろう。 例えば、ガラス(珪砂)が多分に用いられた大作《Field of Silence 23-4》には、画面右下を起点に、左上方向に向かって螺旋的運動が感じ取られる。螺旋をかたちづくるガラスと、白・黄・青などのアクリル絵の具が混ざり合い、思わず触れたくなるような質感が生じている。何より、この質感は作品表面に留まらず、煙のように拡散していく印象を与える。煙は螺旋を描きながら、絵を見る私の元までやって来そうだ。 坂口作品を仔細にみていくと、まだまだ味わい深い部分がある。作品を、正面ではなく、ほとんど真横から見た際の、画面の表情は筆舌につくしがたい。ガラスの反射が画面いっぱいに広がり、イメージの抽象性と素材の物質性が極まっているのだ。坂口が重要視している「粒子」が、肌理細かく迫ってくる。これは、会場でご覧いただく他ないだろう。 最後に、本展に出品された4点の大作にもまた、「自然」が組み込まれていることを指摘したい。というのも、画面には、珪砂という砂が定着させられ、さらにその砂らしさを留めているからだ。 見るものを圧倒する美しい色彩と巧みな線、そして坂口のキャリアを想起させる自然的な「砂」ーーこれらが一体となった作品群を是非見ていただきたい。
坂口は、1970年代後半より、ドイツや日本などで個展やグループ展を多数開催している。
坂口寛敏
1975年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻を修了した後、 西ドイツに8年間滞在する。ミュンヘン美術アカデミー卒業。帰国後には東京藝術大学美術学部油画にて教鞭をとり、芸術家としての活動や経験を通じた指導をはじめ美術教育の現場に長年携わる。絵画制作やランドスケープアートのほか、アートを介した地域交流なども各地で実践。近年には、秩父FORESTの活動に加わり自然の永続的な循環に関わるプロジェクトを展開するなど、作品制作と並行してその実践は多岐に連動している。
近年の主な展覧会
2023 個展「拡張する庭2023」kenakian(佐賀)、個展「Field of Silence」BD Gallery(名古屋)
2022 日中芸術家作品特展「育山行不尽」浙江展覧館(中国・杭州)
2022, 2017, 2012, 2009, 2006個展 ギャラリー58(東京)
2022 個展「パスカル の森」Gallery Kto(東京)
2020「述古建•土楼当代展」振成楼(福建省・中国)
2019, 2015, 2010, 2005「書・非書ー中国杭州国際書道芸術展」中国美術学院美術館(杭州・中国)
2019「第4回国際新媒体3年展」悦・美術館(北京芸術区798・中国)
2018「坂口寛敏+管懐濱」展 上海22画廊(上海・中国)
2018坂口寛敏+潮田友子「シロイルカの森」真壁庭園(帯広)